靴を作る時に必要な革は、皆さんもご存じの通り動物の皮を原材料として作られていて、1つ1つの個体差がおおきいどころか、工業製品からするとかなりかけ離れている感覚です。
したがって、市販の既製品の靴も私たちが作る靴も個体差があり、部位によって革の質が大きく異なります。
例えばこちらの革、残りがわずかになってしまっていますが現在企画商品としてご注文をお受けしているデュプイのサドルカーフという、なかなかのハイクオリティとされてる革です。
この革はマル革といって一頭ぶんの牛で、マル革に対して半裁という背中で右半分と左半分に分けている革もあります。
なので、この革は手前がお尻、向こうの方が頭で、向かって右側が右半身、左側が左半身ということになります。
さて、そんな革ですが靴を作ろうとしたときにはこの革全てが使えるわけではなく、結構な割合で使えない部分が発生します。
まず、これは頭に近い部分で、首筋に当たります。
グロースマークといって、牛が生きていた時に上を向いたり下を向いたりして首の後ろにシワができた跡であり、この部分は見た目の問題で基本的に使えません。
そして、こちらは右足の脇の下に当たる部分と、
こちらは右足の付け根の部分です。
もうぱっと見てわかる通り、品質が良くありません。
この部分は革そのものが薄くなっていて、強度がないことや伸びやすいこと、さらに見た目が良くないことでこの周辺は全滅になります。
裏側を見ていただければ、この辺りが良くないということが分かるはずです。
まだまだあります。
このような牛が生きていた時のキズはいたるところにあり、こういうキズも靴の見える部分には使えないので、裁断する時には避けます。
こちらは背筋です。
先ほど革の全面を見ていただきましたが、背中の真ん中にお尻から頭の方に向かって筋がありました。
これは靴の製作途中のラスティングで引いた時に裂けやすいということで、ここを渡ってパーツを裁断することはできません。
じつはこのほかにもまだありまして、牛の脇腹の辺りは革が柔らかくて伸びやすいために使えなかったり、表からはわからないけれど裏側にキズがある部分はこれまた使えなかったりします。
こんな感じで、一枚の革から実際に靴に使える部分は思いのほか少なくて、だいたい3分の1以上は使えなくて捨てられてしまいます。
そんなわけで、靴づくりの世界では通常このような仔牛に見られる模様においてはOKとして裁断したり、多少の色ブレにおいても今後の経年変化や簡単な仕上げで目立たなくなるようなものに関してはOKとして裁断します。
靴の業界の勝手な言い訳といってしまえばそれまでなのですが、どうしても動物の皮を原材料としているために、お客様にもご理解いただいています。
これは黒い革でも明るい色の革でも同じで、特に黒い革の場合は生地の良し悪しが露骨に出てしまうという特性もあり、むしろ動物の皮である証として見ていただけると嬉しいです。
通常靴をご注文いただく際に、特にちょっと癖のある革の場合はお客様に革の実物をご確認いただいていますが、革の状態からラスティングをするとそこで雰囲気が変わるものもありますので、おおらかな気持ちでご理解いただければと思っております。
もし、このような革の品質の問題が全てダメということになってしまうと、現実問題として表面を削って加工してキズを消して塗料をベットリ塗ったような革しか使えなくなってしまいます。
せっかくの革なのに、革らしさを生かしたモノづくりができなくなってしまいます。
ぜひ、ご理解いただきますようお願いいたします。
★★★お知らせ★★★
★最後のデュプイの革を使った企画「頑張った自分にご褒美企画2022」の受け付けをしています(残りが少なくなってきました)。
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