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装具をつけた状態で履く靴の製作

カテゴリー: @ Work:アットワーク


今日の話はいつもとはちょっと異なり、あるお客様から製作のご依頼をいただいた靴の製作のレポートになります。

ご注文のご依頼主のTさんにブログへの掲載の承諾をいただき、さらにTさんから同じような境遇にある方に少しでもお役にたてればという旨のご意見をいただきまして、レポートとして書かせていただきます。

まず、Tさんは若いころに事故で脊髄を損傷してしまい、普段から左足は短下肢装具をつけていらっしゃいます。

短下肢装具とは、足首の動きを固定することを目的とした装具で、ふくらはぎのあたりから足の底面にかけてプラスチックの板で形を作り、マジックテープなどで足を固定するものです。

言葉で説明するのが難しいので、どんなものか調べていただけると幸いです。

その装具はそこそこの厚みがあるため、装具をつけた状態だと実際の足のサイズよりもかなり大きいサイズの靴でないと履けないばかりか、足首が固定されてしまっているので靴の脱ぎ履きが非常に大変なのです。

じつは、私はかつて義肢装具関係の会社に勤めていたことがありまして、そんなに難しいことはわかりませんが多少であれば知っていることもあります。

ただ、半端な知識は役に立たず、今回はほぼゼロスタートという感じでお話をうかがいました。

Tさんは、チャッカブーツがお好きとのことでこれまでに既製品の靴をいろいろと試してみたり、時にはオーダーメイドで靴を注文されたこともあったそうですが、なかなか思うようなものに出逢えなかったとのこと。

そして、今度こそという思いで私たちシューリパブリックにご連絡してくださったのだそうです。

前回、初めて打ち合わせにお越しいただいて、これまでの経緯をうかがいました。

そして、それでもチャッカブーツが好きでどうしてもチャッカブーツを履きたいこと、靴の重さは大変大きな負荷になること、そのほかにTさんが希望されることをなるべく詳しくうかがいまして、私も手探りの部分があるということをお伝えし、仮合わせをさせていただきながら完成させるということで、ご依頼をお受けしました。

そして、仮合わせの靴が完成し、今日フィッティングのためにお越しいただきました。

結論、

わかっていたことではありますが、思っていた以上に装具をつけた状態では足を入れるのが困難で、履き口を13ミリほどカットして、やっと普通に握履きができるようになりました。

それがこちら。

装具をつけた状態で履く

ベロの付け根の部分をカットすることで、靴の脱ぎ履きがしやすくなるのですが、ここまで開けば支障なく脱ぎ履きできそうです。

これはパターンで調整します。

そして、靴を履いていただいている状態。

装具をつけた状態で履く

靴ヒモはもう少し締まるのですが、普段のようにきつく締めてしまうとあまり良くないようなので、少し緩めに締めた状態で、ハネが良いくらいに閉じ、そして足をしっかりとホールドできる状態に調整します。

言葉で説明するのはちょっと難しいのですが、ただこっちからあっちにずらすのではなく、全体のバランスを見つつスムーズにキレイに収まるようにしたいと考えています。



そのために、全体的にタブの位置を5ミリほど前に出して、ハネの形状を全く違うラインに修正します(もうパターンの修正はしました)。

今回、装具をつけている左足に関しては履き口の形状の変更だけで、ラストそのものは問題なく、イイ感じで収まってくれたようでしたが、予想外だったのが問題ないはずの右足の方でした。

装具をつけた状態で履く

一見問題なさそうなのですが、ヒモよりも少し前の方(タブのあたり)に横にシワが入っています。

この部分、予想外にタイトだったようなのです。

単にフィッティングの数値的なことなのでそれほど大きな問題ではないのですが、普段から左足をかばっていらっしゃるせいか右足の変形などがあり、通常のフィッティングでは具合がよくありませんでした。

なので、改めて足を計測し直し、フィッティングの方法を改めることにしました。

Tさんにはさらに詳しくご希望やこれまで購入した靴に関する不具合をうかがい、私が考えている今回の靴の方向性を再度お伝えして今日の打ち合わせは終了です。

早速データをまとめて、ラストの調整です。

装具をつけた状態で履く

向かって右側にある左足はほとんど問題なかったのに、右足は計測の数値が結構値が変わっていまして、これは数値の変化にも対応できるようなセッティングにしておく必要ありと判断しました。

装具をつけた状態で履く

調整をし直した右足のラスト。

調整そのものはたいして手間はかかりません。

装具をつけた状態で履く

こちらは左足のラスト。

装具のぶんの厚さや幅を含めると、左右の差が結構ありまして、全く違うサイズのラストをベースに調整を始める必要があります。

装具をつけた状態で履く

今回、試し履き用として製作した靴ですが、これをもとに再度調整をしまして、ほぼほぼゴールが見えました。

もうパターンの作り直しも終わりまして、どんどん次の工程に進みます。


じつは、私は少し前からいわゆるハンドソーンウェルテッドのオーダーメイド靴とは別に、単に足の形が理由で既製品の靴を履くことができない方向けの靴を作りたいと思っていました。

それがハンドソーンウェルテッドでも全くかまわないのですが、ハンドソーンウェルテッドで製作すると結構な費用がかかってしまい、そこまでのクオリティは要らないという方も多いのではないかと思っています。

そんな方に向けて、足の形に合わせて製作する履きやすい靴をなるべく手の届きやすい価格で作りたいのです。

中には先天性の理由で左右の足のサイズが違ったり、もしくは病気で左右のサイズが違ったり、場合によっては左右の差はないけれど幅が広い、狭いという理由で既製品が全く合わないという方がいらっしゃいます。

理由はそれぞれあるとおもいますが、何かしらの理由で思っているような靴を履くことができない方がいらっしゃって、一方で私たちシューリパブリックはだいたいのサイズの靴は作ることができますし、パターンも作れますし、少量生産にも対応しています。

だったら、これが繋がれば良いのではないか、場合によってはお役に立てるのではないかと思ったわけです。

それを実現しようと思い、行政の方に相談したのですが、特にコストにおいて納得のいく解決策が見つからず、頓挫しかかっていました。

たとえば、健康保険が使えるようになれば良いのですが、健康保険が適用になる条件は・・・、

「医師が治療の一環として・・・」

という条件があるそうで、単に既製品の靴が履けないというのは病気やケガではないので適応は難しいのだそうです。

未だにこれといった解決策が見つからないのですが、私たちはなるべくお客様にとって負担の少ない価格で靴を提供できるよう、知恵を絞っていくつもりです。

全国の靴でお困りの方、もしかしたらお役に立てることがあるかもしれないので、良かったらご連絡ください。


話が脱線してしまいましたが、次回はTさんの靴が完成して履いていただく様子をお伝えする予定です。

もしかしたら、予想外に何か不具合が出て作り直しということになってしまうかもしれませんが、これまでにたくさんの情報をいただいたので、Tさんに納得していただける靴を完成させたいと思います。

またレポートさせていただきます。

お知らせ

★オーダーメイド靴をご注文の際には、事前にご予約をいただいたうえでお越しいただいております。

 私たちの工房のスケジュールはこちらをご参照下さい。

 打ち合わせ等でお越しいただく場合のお時間は、10時、13時、16時の中からお選びください。

 ご検討中の方は、見学も大歓迎です。

 また、オンラインによる見学や打ち合わせにも対応させていただいております。

★メールアドレスは info@shoe-republic.com です。










 

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