今日の作業は、ラストの調整です。
私たちシューリパブリックでは、1ヶ月に余裕を持って作業できる靴を9足とし、その9足がひとつのグループとなって作業を進めます。
ただ、靴を作るという作業の性格上、放置する時間が結構あるため、放置している間には違うグループの靴たちの作業を進めます。
そんなわけで、昨日はひとつのグループの靴たちをだし縫いに出せるところまで進め、
今日は違うグループの靴たちのラストの調整です。
こちらは、あるお客様のラストですが、左足の調整が終わったところです。
じつはこのお客様、ずっとこれまで靴が合わなくて困っていらっしゃったようで、
偶然お会いして私どもの靴を気に入ってくださり、ご注文に至ったという経緯があります。
お話をうかがってみたところ、それまではだいたい26.5センチの靴を履いていらっしゃったそうですが、どの靴を履いても薬指や小指が当たるそうで、
かと言ってハーフサイズ大きい27.0センチの靴を履くと、靴の中で足が動いてしまうそうです。
それをうかがったうえで、私たちのサンプル靴で26.5センチに近い8 1/2のモノを履いていただいたら、
「これはとても初めて履くような靴とは思えない。このまま履いて帰りたいくらいだ。」
とおっしゃっていました。
そして、そのお客様は、
「これなら安心して注文できそうだ。」
ということで、ご注文いただいたのですが、
実際に足を計測してみると、足長に適したサイズは全然8 1/2ではなく、9 1/2でした。
でも、足幅が少々細いことや、足の形状の関係で既製品の9 1/2を履くとブカブカになってしまいます。
そんな足のお客様です。
ラストを違う角度から。
外くるぶしの下の部分がかなり細くなっていることや、甲周りが非常に細いこと、そしてジョイント周辺もとっても薄く、確かにこれでは既製品は合いません。
このラストをパッと見たときに、調整していない右足と、調整した左足の差なんてほんの十ミリほどなのですが、
靴の場合ほんの数ミリが履き心地にとっても大きな影響を及ぼします。
たとえば、普段は2Eの靴を履いている方が、同じ足長の3Eの靴を履くと、かなり緩く感じるはずです。
2Eと3Eのジョイント部分の足囲の差は6ミリです。
なので、靴の世界で10ミリも違えばとっても大きな差になります。
このあと、右足も調整をしてお客様のラスト調整が完了しました。
靴の履きやすさは、上記のようなラストが足にあったもので靴が作られているか否かという点がクローズアップされがちですが、
私が思うにこの点は履きやすさの判断の50パーセントほど(と言ってもどれくらい足が靴に合っているのかということは人それぞれなのでその割合を表すのには無理がありますけど・・・)で、
残りの50パーセントは靴の作りだと考えています。
靴の作りとは、その靴がどんな製法によって作られたのか、どんな材料を使っているのかというスペック的な部分と、
作り手がどれくらい正確に丁寧に作ったのかという、数値に表せない部分があって、
それらのかけ算で表されるものだと考えています。
製法や素材がどんなに良くても、作り手がちゃんと正しく作ることができないようでは、良い靴はできません。
全て設計通りにやっても再現できないことがあって、
腕の良いスーツの職人さんが作ったスーツはとっても着やすくて動きやすくてストレスがないといいますが、
それは単に素材やパターンなどではない、もっと深い部分が影響しているためだと言われます。
靴も同じようなものですね。
ラストがあっても、作る手法は決まっていても、
靴は機械の組み立てと違ってカチッとハマるものではありませんし、作り手のさじ加減でどうにでもなってしまうものですから、
作り手の手は非常に大きな要因となるわけです。
でも、もっと言ってしまうと、ラストの調整はどのようにするという確たる設計図や仕様書があるわけではなく、
足を計測した数値に対してどの部分をどれくらい、何パーセントくらい締めるのかという理論で成り立っています。
その理論も作り手によって異なり、ここでもまた作り手によって履き心地が異なる要因があります。
靴つくり、とっても深いです。
深くて難しくて、たくさん経験を積んで自分がこれだという理論を導き出して、
その結果をお客様に喜んでいただけたら、それは作り手としては自分の考え方を認めていただけたということですから、
とっても嬉しいわけです。
靴で困っていらっしゃるお客様のお役に立てて、その上お客様に認めていただいて、
その積み重ねで信頼していただけるという、靴つくりはとってもステキな仕事です。
そのグランドフロアになるのがこのラスト調整。
このあと、靴の完成に向けてどんどん階が積み上がっていきます。
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