以前からお伝えしている通り、黒スムースでフォーマルな靴に使える革の入手が大変困難な状態になっています。
10年くらい前なら、ブガッティ、イルチアのボックスカーフ、ウィンザーといった非常に品質の高い素晴らしい革が普通に入手できたのに、今ではそれらはすべて入手することができず、ここ数年メインに扱っているKing MPすら今後の入荷の予定はないと言われてしまうほどです。
黒のスムースの革は一定数のニーズがあるので、在庫を切らすわけにはいかないのに、非常につらい時期となっています。
そんな中、前々回のレザーフェアで見つけた山陽さんの革が思っていた以上のクオリティ&仕上がりで、入手も今のところ大丈夫そうなので期待をしています。
まず、山陽さんは自社でピット(皮をなめすための槽)を持っていることで、昔ながらの製法でタンニン鞣しの革を作ることができるという大変大きなメリットがあり、条件が合えば希望するような革を作っていただくことも可能とのこと。
また、製品に関して営業さんにお話をうかがってみると、かなり高いところを目指しているようなので、これまた期待が持てます。
私たちのような極めて小さな工房がオリジナルの革を作っていただくには障壁がたくさんありすぎて実際問題として非常に難しいのですが、どこかの会社がオリジナルの革を作る時に条件が合っていれば便乗して作っていただくことなら不可能ではありません。
それ以前に、現状で作っている革の中には私が欲しいと思っているようなものもあるようで、それらを実際に使ってみてどんな感じなのかを試してみたいと思っていました。
そんなこともあって、以前に試験的に入荷したEXベンゲル(非防水)とEXゲパルト(防水)に関して企画商品を出して割安な価格でご注文いただいたりしまして、まぁ実際にはそれらの企画を出す時点では革の性格はある程度わかっていましたが実際に靴にしてみて、より細かい点でそれらの性格を把握することができました。
結果、どちらの革もとてもキレイな靴を作ることができ、革のクオリティにおいても不安要素はないという結論になり、防水仕様のEXゲパルトを定番の革として扱うことにしました。
こうして見てみても、大変きれいな革だということがわかります。
じつは私がこの革を試験的に購入する際に、ひとつ気になっていたことがありました。
それは、防水処理をすることで表面に変なツヤがあったり、もしくは安っぽい仕上げになっていると困るということです。
実際に商品が届いて、非防水のものと比べてみたところ、私が見た限りでは違いは感じられなかったのです。
むしろ、営業さんから聞いた話で、防水革の方がその製造工程で防水の為の脂を入れているため、若干しなやかだというメリットがあるのだとか。
非防水の革で靴を作る時に、特につま先のラスティングでは若干の硬さを感じたので、そのことは非常に歓迎するべきことです。
そんな理由で、防水仕様のこのEXベンゲルを選びました。
写真だとイマイチ伝わりにくいかもしれませんが、表面の雰囲気はチープな感じではありません。
先日お越しいただいたお客様たちにも見ていただいていますが、みなさん同じ意見です。
シワの入り方はこんな感じで、汚いシワが入ることもなく、これならビジネス用のオックスフォードを作ってもとてもキレイに仕上がりそうです。
革の裏側はこんな感じ。
元の生地の厚さが十分でないと、裏側が毛羽立ったような感じになってしまいますが、これだけしっかりとキレイになっていれば元々の生地の厚さや繊維の状態も良いものだとわかります。
革の厚さは製品としては1.6㎜と聞いていますが、この部分は1.7㎜ほどありました。
生地の質感は、何かと比較してみるとわかりやすいと思いますが、たとえばKing MPと比べるとこちらの方が少し重くてズッシリとした感じがあります。
King MPがカラッとした感じなのに対して、こちらは内部に少しオイルを含んでいるような印象です(表面にオイルの雰囲気は出ていません)。
表面を見ないで革だけ丸めて持つと、ELBAMATTと同じくらいの重量感です。
つまり、革の見た目はKing MPっぽい感じですが、履いた時の質感や重さはELBAMATTと同じくらい、そして革には防水処理が施してあるので多少の雨の日でもアッパーは心配いらないという革になります。
ただ、質感に関してはそれぞれ皆その良さがあるので、これはどれが一番ということではなくお好みでお選びいただければ良いかなと思います。
革としては、実用の靴を作るうえでは非常に良さそうです。
より実用的な靴を作ってみたいという方、ぜひお試しください。
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