おとなり

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お客様から・・・、

「靴を屈曲させたときに革の擦れる音がする」

とのことで、原因究明&解決のために靴をお預かりしました。

お預かりしたのは、昨年製作させていただいた旅チャッカです。

旅チャッカ

音がするのは右足だけなので、右足だけ送っていただきました。

音鳴りの問題って、原因を究明するのがけっこう大変なのです。

靴に限らず結構いろいろなものにおいて音鳴りってありますよね。

私のクルマも、朝の冷えている時だけリアの右のサスペンションからギュッという音がするのですが、ディーラーに持って行くともうその時点でクルマは温まってしまっているので音は出ません。

音の原因を推測すると、バネのブッシュかもしれないし、ショックアブソーバーのブッシュかもしれないし、はたまたスタビライザーのブッシュなのか、もしくはサスペンションのリンクのブッシュなのか、おそらくブッシュのどれかだろうと思うものの、ブッシュがありすぎて特定できません。

数年前にはフロントの右側からやはりギュッいう音がすることがあって、その時もサスペンション関係のブッシュを疑ったのですが、もしやボンネットのブッシュかもしれないと思って少し調整してみたところ、見事に音が消えたということがありました。

クルマは無数のパーツを組み上げてできているので、パーツ同士の摺動で音が鳴るような場合は本当に特定が大変です。

かと思えば、私の以前の通勤用の自転車(ギヤなし)において、普通に走っていると定期的にコクッコクッという音がして、ギヤなしなのでだいたいクランクもコグ(後ろ側の歯車)も常に一定の比率で回っていて、ギヤを変えてどこで音がしているのか探ることもできず、ペダルのベアリングを疑ってペダルを変えてみたり、コグを変えてみたりしてひとつずつ怪しいものをつぶしていって、結局はボトムブラケット(クランクの軸のパーツ)のベアリング不良だったのですが、こんなにパーツ点数の少ない自転車でさえ音鳴りの原因を追究するのは結構大変なのです。

そんなわけで、お預かりした靴の音の原因究明です。

だいたい靴の音鳴りと言えば、シャンクの接着不良で擦れたり、もしくはシャンクがレザーソールと擦れた時に音がするというケースが多いのですが、この旅チャッカに関してはプラシャンクを使っていることや、靴がまだ新しいことなどの理由でシャンクがはがれかかっている可能性は低く、またシャンクがレザーソールもしくはレザーと面している構造ではないので、シャンク関係ではないと思っていました。

実際、靴を屈曲させてみてもシャンク鳴りのような音はせず、というよりほとんど何の音もしなかったので音が出る状態にするところからのスタートとなりました。

わざわざ音を出させるというのもちょっと変ですが、お客様が履いていた時には革が擦れるような音がしたとのことでしたので、靴の内側を少しずつヒートガンで温めて屈曲させるという作業を続けていたところ、しばらく経ってかすかにギューという音が鳴りだしました。

旅チャッカ

確かにこんなふうに屈曲させるとギューという小さな音がするのですが、音が鳴っている場所は予想した通りシャンクの周りではなく屈曲しているあたりの底面の近くのようです。

ちなみに、この靴の製法はブラックラピドという、簡単に言えばマッケイを縫ってからだし縫いをするもので、ほとんどセメンテッド(接着で作る靴の製法)に補強で縫いをかけたような構造の為、靴を屈曲させたときに音が出るというのはじつは考えにくいのです。

もしあるとすれば、アッパーのハネの裏側とベロが擦れている部分か、もしくはインソールと何かのパーツということになります。

参考までに、この旅チャッカは通常のインソールのほかにもうひとつ取り外せるインソールを入れている構造で、製作時の試験段階で取り外せるインソールと取り外せない方のインソールとで擦れて音が鳴るということがあったため、その対策として取り外せるインソールの裏側には不織布を貼り付けて縁を縫ってあります。

ただ、今回の音鳴りは取り外せるインソールは関係なく、アッパーのハネのライニングとベロでもなく、何度も音を出して振動が出ている源を追求してみたところ、インソールの屈曲しているあたりだということがわかりました。

旅チャッカ

ご存知の通り靴はインソールがあって見えない部分にボトムフィラーとしてコルクがあって、そしてこの靴の場合はミッドソールとして2㎜厚の革があって、その下にソールがあるという構造で、コルクが何かに擦れて音が出る可能性は極めて低く、ミッドソールとソールはこの靴においてはしっかりと接着してあるため、これらの接着が原因で音が出ているわけではないと推測しました。

となると、屈曲したときに動くものでインソールに接触しているものとなると・・・、

旅チャッカ

おそらくこれです。

マッケイ縫いの糸。

そんな糸が原因で音がするわけがないと思うかもしれませんが、靴は屈曲する時にわずかにズレが発生するもので、そのズレがマッケイ縫いの糸にも起こらないとは言えません。

なので、この糸に試験的に潤滑剤の代わりとしてデリケートクリームを塗り込んでみました。

しばらく放置して浸透させてみたところ、音が消えたのです。

もしかしたら冷えてしまったために音が消えたのかもしれないと思いましてヒートガンで温めてみましたが音はせず、おそらくこのマッケイ縫いの糸が関係している何かが原因なのだろうという推測に至りました。

もしかしたら、マッケイ縫いの糸が靴の底側で何かに擦れているのかもしれません。

ただ、今の時点で言えるのはこのマッケイ縫いの糸が関係しているのではないかということ。

しっかりと原因を究明するために、お客様にはあと2日ほどお預かりするとお伝えしてあるので、一晩おいてまた明日状態を確認してみたいと思います。

そして、潤滑油として代用しデリケートクリームは継続的な効果は期待できないため、柔らかめのミンクオイルをマッケイ縫いの糸に塗り、ヒートガンで温めて溶かして浸透させ、その状態で明日またテストをしてみる予定です。

おそらくこれで大丈夫だと思いますが、まだ安心できません。

ちゃんと解決できるようにがんばります。


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